浅井忠(ちゅう)が留学した20世紀初頭のフランスでは、優美な曲線を用いた美術様式「アールヌーボー」が席巻していた。パリの街中は、植物や女性をモチーフにした華やかなグラフィックや工芸デザインがあふれ、浅井は、「線のずるずる延びたるぐりぐり式」「何しろ新式を以て人を驚かし当世に歓迎致され居申候」と書き記している。
「新しい芸術」に感化された浅井は、風景画を描く一方で、「珍模様」と称する図案の制作に着手。二百点以上の作品を残した。赤や黄、白などのケシの花と葉がうねるような様相の本作もその一つ。主任学芸員の吉村有子さんは「少々皮肉を込めて語りながらも、アールヌーボーを自分の図案に採り入れ、予想以上の出来栄えを楽しんでいたのでは」と語る。