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「野分蒔絵文庫」

アール・ヌーヴォーの伝道師 浅井忠と近代デザイン(ヤマザキマザック美術館)

「野分蒔絵文庫」
杉林古香作 1906年以降 個人蔵

 留学先のフランスで優美な美術様式「アールヌーボー」に触れた浅井忠(ちゅう)。帰国後には、アールヌーボーと和の装飾美を融合した工芸デザインを手がけ、陶芸家や漆芸家らに図案を提供した。

 2頭の猪(いのしし)がすさまじい勢いで走る様を表した本作は、浅井が描いた図案をもとに、漆芸家の杉林古香が制作した手箱。

 俳句もたしなんだという浅井が、松尾芭蕉が詠んだ俳句「猪もともに吹かるる野分(のわき)かな」の情景を表現したと思われる。

 秋に吹く暴風「野分」を曲線と金粉で施したあたりに、アールヌーボー特有の様式が見てとれる。「きらきらと輝く螺鈿(らでん)から、桔梗(ききょう)が風になびく様子が想像できます。猪の体を鉛で表したことで、ごわごわとした毛並みも感じとれます」と、主任学芸員の吉村有子さんは話す。

(2018年12月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)