「現代書の父」と呼ばれた比田井天来の次男として生まれた南谷(1912~99)。第2次大戦後の45年に初めて、古代文字をモチーフにした前衛的な書を制作した。その後、他の書家らによる新しい書の運動が活発になる。南谷は、書道を「文学的意味と関係なく、線を通しての人間の表出だ」と語り、次第に文字ではない書に取り組むようになる。
「作品68―1」も文字ではないが、書ならではの線の美が堪能できる。大きく横に引かれた線は薄くかすれ、力を入れた箇所には墨が黒く残る。「線の表現を極めようと、油絵の具など様々な試みをしてきた南谷。本作では和紙に透明なアクリル絵の具を塗って墨で書いています。墨が紙ににじまず、筆の毛1本1本の動きが見えます」と学芸員の鈴川宏美さんは話す。