捕鯨が盛んだった長崎県の五島列島での漁の様子を、二代歌川広重が描いた本作。手前の船の先頭には、クジラにモリを打つ役割の漁師、羽刺が立っている。クジラの尾びれの向こう側にも、今まさにモリを放ったばかりの羽刺が。投げられたモリは、上空から落下するように描かれている。厚い脂肪を持つクジラに横からモリを投げても、深く突くことはできない。そこで羽刺はモリを上空へ向かって投げ、重力を利用し仕留めたという。まさに漁の山場だ。
本作のように、クジラの浮世絵は背中や潮吹きの様子など、一部を大胆に切り取った絵柄が多い。江戸中期から、塩漬けの鯨肉は全国的に流通していたものの、大半の人は実際にクジラの姿を見ることはなかった。斬新な構図が、巨大なクジラへの想像力をかきたてたのだ。