人々の感情を揺さぶる生々しい表現で名声を博したイタリアの画家カラバッジョ(1571~1610)は、斬首をモチーフにした作品が多い。ついには本作で自身の生首を描いた。
主題は旧約聖書。イスラエルの少年ダビデが、投石器で巨人のゴリアテを倒して首を落とした話に由来する。晩年、カラバッジョはローマに帰還するため、殺人による死刑宣告を解いてもらうべく、時の権力者に許しを請う絵を送ろうとしたという説がある。傲慢な自分が信心深い少年に打ち倒され、深く後悔している画とも見てとれる。「ダビデに勝ち誇る様子がなく、その表情に哀れみや嫌悪の感情が読み取れるのが印象的です」と学芸員の保崎裕徳さん。
帰還はかなわず、非業の死を遂げたのは本作を描いてまもなくのこと。38歳の若さだった。