植物染料にこだわった紬織を手がける人間国宝の染織家、志村ふくみ(95)。「自然への畏敬の念を持ちながら制作する姿勢は祈りそのもの」と学芸員の瀬戸裕子さんは話す。志村は個人的に度々伊勢神宮に参拝に訪れ、正宮の最奥の垣根「瑞垣」をテーマにした作品も制作するなど、神宮にゆかりも深い。
作品名の「青垣」は、「古事記」に収められたヤマトタケルノミコトの望郷の歌「倭は 国のまほろば たたなづく 青垣 山ごもれる 倭しうるはし」が出典。歌は「大和は国の中でも最もよいところだ。重なり合った青い垣根のような山にこもっている大和は美しい」と解釈される。「青垣」は、柔らかな陽光を受けて幾重にも連なる山々を藍の濃淡で、生い茂る木々や花々を縦横に配した緑や黄、薄桃色で表し、古歌を軽やかな感覚で解釈している。