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「呼ぶ」

「祈り」式年遷宮記念神宮美術館

2013年奉納
2013年奉納

 伊勢神宮に奉納された作品は神宮美術館に所蔵されるものの、あくまで神への献納品。「当館に納められること自体が、祈りの行為に基づきます」と学芸員の瀬戸裕子さん。

 祈りは最も基本的な宗教行為であり、人間の根底に流れる普遍的なものでもある。2011年の東日本大震災の後に奉納された「呼ぶ」は、洋画家の山本文彦(82)が、震災で亡くなった人たちの魂を呼び戻そうとする女性を描いたもの。開いた左手は魂の受け入れを、固く握った右手は災禍に立ち向かう強い意思を表現したという。女性の呼びかけに応えるように巻き貝が浮かび上がり、岩には波に浸食された痕跡が連なる。

 「人間の力を超えた『大きなもの』に対するおそれと敬いを、太古から生と死が繰り返し堆積してきた土地と共に描いた、力強い作品です」

(2020年1月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)