ヤマザキマザック美術館の創立者、故・山崎照幸氏は、画家の木村忠太(1917~87)を高く評価し、油彩の大作3点を購入した。75年の「セーヌ河畔」はそのうちのひとつだ。
会場で絵の前に立つと、鮮やかな赤に圧倒される。色も形も自由奔放。黒い描線はキャンバスからはみ出している。「70年代に入り、画家として軌道に乗った頃の作品です」と主任学芸員の吉村有子さんは話す。
木村の絵には必ず、建物や植物など、その風景を見たときに印象的だったものが描き込まれている。本作をじっと眺めていると、画面左の四角い枠の中に、セーヌ川や橋、河畔の建物が見えてくる。「赤は夕焼けの色でしょうか。左上がほの暗く、日が落ちつつあるのかも」と吉村さん。想像を膨らませるのが楽しい。