小首をかしげて筆を執るのは、江戸・吉原の遊女粧ひ。恋文なのだろうか。にやりとほくそ笑み、ゆるんだ口もとからは舌をのぞかせている。
なんともつやっぽい女性の姿を捉えた本作は、美人画を得意とした浮世絵師、喜多川歌麿(1753?~1806)による美人大首絵。それまで多くの絵師が描いてきた全身像ではなく、上半身、特に顔を大きく配することで、女性の細かなしぐさや表情、結った黒髪の色つやまでがわかるようになった。さらに、光沢のある雲母摺を施したシンプルな背景が、女性の心情を写し、色香を際立たせているようにも見える。こうした巧みな技を美人画に採り入れた歌麿は、一躍脚光を浴び、天明・寛政期(1781~1801)において美人画の名手として名をとどろかせた。
本展では歌麿の作品をはじめ、浮世絵の百花繚乱ともいうべき時代の作品135点を紹介する。