着物の褄(つま)を搔(か)い取るうりざね顔の女性たちは、江戸城からみて東南(辰巳)にあたる深川の花街で、「意気」と「張り」を売りにした辰巳芸者。日本人離れともいえる長身、しかも腰高の姿はまさに「小股の切れ上がったいい女」だろうか。
本作は、鳥居清長(1752~1815)の揃物「当世遊里美人合(とうせいゆうりびじんあわせ)」の一枚。役者絵をお家芸としていた鳥居派の4代目を継いだ清長。鳥居派伝統の筆の運びで役者絵などを手がけるも、やがて西洋画に学んだかのような独自の様式を打ち立て、「江戸のビーナス」とうたわれた八頭身美人の女性の群像を描き、天明期(1781~89)の美人画界を席巻した。
この清長に対抗したかのように、後世、顔を大きく捉えた「大首絵」で大成した喜多川歌麿。この2人の絵師の相反する描法があったからこそ、天明・寛政期(1781~1801)の浮世絵は華やぎを増したのかもしれない。