ハート柄のような大胆なデザインや、花を重ねた「唐花」文様。家人不在の部屋をのぞき見ると、色とりどりの意匠の着物が衣桁にかけられている。さて、どんな美しい女性が袖を通すのだろう。想像を膨らませて楽しむ「誰ケ袖の図」(江戸時代初期)。
衣桁にかけられた着物を図案にして屏風に描く様式を「誰ケ袖図屏風」といい、桃山から江戸時代に流行した。着物の袖の形に作ってたもとに入れた匂い袋のことも「誰ケ袖」と呼んで、香合や茶わんなどにも描かれたという。
この風流な名前は、古今和歌集が由来だと、学芸員の今泉たまみさん。「色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれし宿の梅ぞも(わが家の梅の香りがよいのは、誰の袖の移り香のせいだろうか)の歌と結びつけられたようです」と解説する。文様は衣装を彩るだけでなく、身にまとう人までをも思わせる。