ふわふわとした毛に色鮮やかなマフラーをまとう猫。愛らしい瞳は何を見ているのだろう。
作者の井上覚造(1905~80)は、猫に魅了された画家の一人。神戸にいた頃、近くに住む谷崎潤一郎から、タマという名の猫を上等なかつお節付きで譲り受けて以降、猫を描き続けた。筆を何年も使い込み、先がちょうどよく削れた筆で毛並みやひげをリアルに表現。中でも、マフラーを巻いた猫は自画像だった。人にこびない自由な猫に、自身を重ねたのだろう。
農村や建築などの克明な風景描写には、シュールレアリスムの影響が透けて見えるという。その中の猫を見ていると、幻想と現実の境に引き込まれるようだと学芸員の早川祥子さん。「猫には見えない何かを見ているような時があります。井上の猫は超現実の世界への案内人かもしれません」
本展では、井上がパリで交流した藤田嗣治らが、鳥獣虫魚を表現した絵画や彫刻を紹介する。