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「アルプスの猫」

美術のなかのどうぶつたち(古川美術館)

1973年ごろ キャンバス・油彩
1973年ごろ キャンバス・油彩

 ふわふわとした毛に色鮮やかなマフラーをまとう猫。愛らしい瞳は何を見ているのだろう。

 作者の井上覚造(1905~80)は、猫に魅了された画家の一人。神戸にいた頃、近くに住む谷崎潤一郎から、タマという名の猫を上等なかつお節付きで譲り受けて以降、猫を描き続けた。筆を何年も使い込み、先がちょうどよく削れた筆で毛並みやひげをリアルに表現。中でも、マフラーを巻いた猫は自画像だった。人にこびない自由な猫に、自身を重ねたのだろう。

 農村や建築などの克明な風景描写には、シュールレアリスムの影響が透けて見えるという。その中の猫を見ていると、幻想と現実の境に引き込まれるようだと学芸員の早川祥子さん。「猫には見えない何かを見ているような時があります。井上の猫は超現実の世界への案内人かもしれません」

 本展では、井上がパリで交流した藤田嗣治らが、鳥獣虫魚を表現した絵画や彫刻を紹介する。

(2020年6月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)