うわさに振り回される人間の愚かさ。「数カ月前のトイレットペーパー騒動を思わせます」と、本展を企画した徳川美術館学芸員の加藤祥平さんは話す。
鎌倉時代の随筆「徒然草」に江戸時代初期の俳人・松永貞徳による注釈を加え、絵画化した「徒然草絵巻」(全12巻)の一場面。京に現れた鬼を見ようと人々が方々に出かけ、けんかまで起きた、という話だ。
随筆は「当時、数日間続く病がはやり、鬼はその前触れだったのではないかと言う人もいた」と締めくくられている。このころ実際に風疹が全国的に流行し、改元に至った史実がある。科学が未発達だった時代、人々は疫病や災害をもののけの仕業と考え、恐れてきた。
本展では、恐怖や不安によって生み出された鬼や怨霊、妖怪を古典文学や絵画など計約60点で紹介する。