「我は海中に住む、あま彦と申す者なり」。1843年、肥後国(熊本県)に現れたという妖怪だ。3本足で体毛がある。夜な夜な猿の声で人を呼び、豊作と病の多発を予言。「我の姿を書き見る者は無病長寿となる」と告げて姿を消したそうだ。
尾張藩の重臣に仕えた水野正信が、江戸末期の世相を記録した書物「青窓紀聞」(全204冊)の中に登場する。口の部分が「天」、鼻が「ひ」、目が「こ」の字で形作られ、誰でも姿を描きやすいよう工夫されている。
幕末になると、このような未来を予言する妖怪「予言獣」がブームになった。社会的不安や未知の病魔などに対する恐れから生まれたとされる。昨今ちまたで話題の「アマビエ」に名前が似ているが、アマビエは半人半魚。1846年に現れたとされ、アマビコから派生したと考えられている。「当時は手で描き写して広まっていったので、写し間違えが原因かもしれません」と、徳川美術館学芸員の加藤祥平さんは話す。