古い唐櫃(からびつ)をのぞく赤鬼。中に潜んでいた妖怪たちは驚いて逃げ出していく。黒い体の妖怪は赤鬼を振り返り何か叫んでいる。頭から火を噴いているのは五徳の妖怪。使い古された道具に魂が宿り、動き回る「付喪神(つくもがみ)」だ。どの妖怪も表情豊かで躍動感がある。
鬼や化け物たちが、闇に紛れて列をなして歩くという百鬼夜行の説話は平安時代からあった。室町時代には絵巻が描かれるようになり、京都・大徳寺真珠庵には現存する最古の作品が伝わる。
本作はそれを忠実に写した模本で、こうした絵巻が多く描かれた江戸時代の作。物語性はなく、純粋に妖怪の姿を楽しむために作られたと考えられる。徳川美術館学芸員の加藤祥平さんは、「妖怪どうしの視線のやりとりなど見ていて楽しいですね。声が聞こえるようです」。