全身麻酔での外科手術を世界で初めて成功させた記録が残る華岡青洲(1760~1835)。京都で医学を修めた後、故郷の和歌山で開業。患者の苦しみを和らげたいと麻酔薬の開発に取り組み、数種の薬草から「麻沸散(まふつさん)」を完成させた。
門人・赤石希范が書いた本を写した本作には、1804年に麻沸散を使った手術を初めて受けた女性が描かれる。乳がんを患う奈良の藍屋利兵衛の母・勘(59)。約100グラムの腫瘍(しゅよう)を摘出、約20日後に故郷に戻り、4カ月生存したという。
内藤記念くすり博物館学芸員の稲垣裕美さんは「麻酔薬の完成には、かなり長い年月とさまざまな工夫が必要でした」と話す。青洲の母や妻が実験台になったエピソードが知られるが、残された記録はほとんどない。これに限らず青洲自身の著作は少なく、研究や治療、後進の教育に注力していたためとみられる。