漆塗りに金蒔絵で飛ぶ鶴を描いた香枕。鶴の赤い頭や尾羽の色の変化が細やかに表現されている。外側は高蒔絵の技法で図柄に立体感を出し、全体の仕上げは粒子の大きさの異なる金粉で梨地に。内箱に香炉を納め、寝ながらにして髪に香りをたきこめた。
「薫煙を出すためのすかし模様は、組香の答えを示す『源氏香の図』がモチーフでしょう。見た瞬間に香りをイメージさせるデザインです」と、学芸員の高曽由子さん。江戸時代には、華道や茶道と同じく香道も公家の女性がたしなむ教養の一つとされ、嫁入り道具には香りに関する品もあったという。
歴史をさかのぼると源氏物語32巻「梅枝(うめがえ)」に、主人公らが薫香の調合を競う記述がある。平安時代には香りの文化が日本に根付き、よい香りを漂わせることが内面の美しさも表していた。香炉の上に籠をかぶせ、着物を掛けて香りをたきしめる習慣もこのころにはあったといわれる。
香油や香水を直接体につける地域とは異なる日本独特の文化が、香りの道具から感じ取れる。