花弁が2枚連なったハスをかたどった「複弁蓮華文」。7世紀後半に四大官寺の一つとして建立されたと考えられる川原寺(奈良県明日香村)に初めて現れたこの文様の瓦が1970年、愛知県豊田市からも出土した。
伊保廃寺と呼ばれるこの遺跡は、名古屋大学大学院人文学研究科の梶原義実准教授らが調査を進めている。これまでは瓦の文様から、寺は川原寺の影響を受けて建立されたと考えられてきたが、梶原さんは一歩踏み込んだ考察をしている。
同じ文様の瓦でも同じ型を用いて作られ王権・国家から直接もたらされたと考えられる「同笵」と、形は似ていても間接的な普及と見られる「同文」とを区別するべきだという考え方だ。
川原寺式の瓦の蓮華文は花弁が8組(弁)なのに対し、伊保廃寺の瓦は6組。梶原さんは明らかに「同文」とみて、中央の政府や氏族と関係があるとすぐに結びつけるのではなく、文様の地域社会での伝播などを考える必要があるという。花弁の数を減らしたことに何らかの意味がある可能性も視野に、寺院の普及過程の解明を進めている。