ワニを押さえつける半人半獣のような奇妙な生き物は、タンザニアで信じられている精霊「シェタニ」。「サタン(悪魔)に語源をもつとされ、人や動物、怪物と自在に姿を変えると言われています」と水野恒男館長が解説する。ティンガティンガ絵画の画家たちは、夢で見た恐ろしい出来事や身に降りかかる災いを、シェタニの姿を借りてそれぞれの表現で描いているのだという。
現地では今も祈祷師が信じられ、絵画のモチーフにされることも多い。本作のシェタニにも、祈祷師がつける動物の角の装身具が見られる。両耳にぶら下がるヒョウタンも、祈祷師がよく薬入れに使う道具だという。
ヘビが身を乗り出した耳、鋭い爪の手足などは異様だが、口を半開きにした表情はどこか憎めない。水野館長は「シェタニは人を困らせる一方、気まぐれに人を助けることもあるんです」。混じり合う畏怖と好意が、絵にも表現されている。