洋画のように塗り重ねられた絵の具と、対象を強調したダイナミックな筆遣い。画面には堂々たる品格と生命力があふれている。どっしりとした富士山の手前に咲き誇るのは、ショウブ、ボタン、水仙、梅の花。
日本画の型を破る大胆な構成と濃厚な色使いで知られる片岡球子(1905~2008)が富士山を描き始めたのは、60歳を過ぎてからだ。モチーフを求めて桜島、浅間山など火山を中心に日本各地の山を訪ね歩いた末、富士に行き着いた。
「噴火していないから易しいだろう」と思ったというが、いざ取り組むと「富士山の大きさが出ない」。以来晩年までさまざまな富士を描き続け、連作は代表作の一つとなった。その中には本作のように裾野を花々が飾る作品も多い。「絢爛(けんらん)豪華な花々は、作家によって富士山に捧げられた献花のように、着物を着せるように描き添えられました」と学芸員の橋本莉緒さんは話した。