熊谷守一(1880~1977)がこの作品を描いた年の立秋(8月8日)、学芸員の小南桃生さんが調べた気象データによれば、東京の最高気温は27.7度。前日33.4度から一気に下がったのは、夜半に降った雨のためか。
守一はその3年ほど前に軽い脳卒中を起こした後は外出せず、東京都豊島区の自宅の庭の植物や昆虫を毎日飽きず眺めた。秋の気配を感じた朝の情景に描いたのは高い空、築山の五葉松。ツル性の葉は、木々から家のひさしに渡した針金をつたうブドウだろうか。
シンプルな輪郭線と平面的な色面が特徴の「守一様式」は70代半ばで確立された。この絵もその特徴をよく表すが、空に浮かぶ雲だけは輪郭線がない。「とても珍しい。雲に感じる何かがあったのでは」と小南さん。
本展は晩年の守一の全宇宙だった庭から生まれた作品を展示。写真や見取り図、故郷・付知(現岐阜県中津川市)の文化や自然も交えて紹介している。