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「立秋の朝」

庭と作品(熊谷守一つけち記念館) 

1959年 油彩 32.9×23.4センチ
1959年 油彩 32.9×23.4センチ

 熊谷守一(1880~1977)がこの作品を描いた年の立秋(8月8日)、学芸員の小南桃生さんが調べた気象データによれば、東京の最高気温は27.7度。前日33.4度から一気に下がったのは、夜半に降った雨のためか。

 守一はその3年ほど前に軽い脳卒中を起こした後は外出せず、東京都豊島区の自宅の庭の植物や昆虫を毎日飽きず眺めた。秋の気配を感じた朝の情景に描いたのは高い空、築山の五葉松。ツル性の葉は、木々から家のひさしに渡した針金をつたうブドウだろうか。

 シンプルな輪郭線と平面的な色面が特徴の「守一様式」は70代半ばで確立された。この絵もその特徴をよく表すが、空に浮かぶ雲だけは輪郭線がない。「とても珍しい。雲に感じる何かがあったのでは」と小南さん。

 本展は晩年の守一の全宇宙だった庭から生まれた作品を展示。写真や見取り図、故郷・付知(現岐阜県中津川市)の文化や自然も交えて紹介している。

(2020年3月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)