奈良の風物を描いた作品や吉川英治作「新・平家物語」の挿絵で知られる杉本健吉(1905~2004)は20代の初めから、画業のかたわら旅行雑誌の表紙や観光ポスターなどの仕事を請け負った。
各地を取材に訪れ、この作品はそうした機会の空き時間に写生して描かれた。
木曽川を挟んで岐阜県側から見た犬山城は実際はもう少し左を向いている。天守が一番美しいと見える角度に「演出」したらしい。
手前に雪の積もった枝を大胆に置き、枝越しに望む城がキャンバスに占める割合は小さいが、遠近感から堂々とそびえるような印象を与えている。
学芸員の鈴木威さんは「城の魅力を捉え、観光ポスターにもなるような構図。後年の自由な筆運びとは異なり、若い頃の『まじめ』な絵です」と話す。
人生の大部分を名古屋で過ごし、城が常に身近だった杉本。
今展では国内外の城を題材とした風景画やポスター原画など初期~最晩年の約80点を展示する。