50代で初めて海外へスケッチ旅行に出掛けた杉本健吉は、その後毎年のように海外を訪れ、95歳までに約30カ国・地域を旅した。
描くのが速く、旅先でもホテルで時間があれば、スケッチした絵に彩色を施して仕上げたという。
フランス北部の港町ディエップで制作されたこの作品は、左右で貼り合わせた2枚の紙に描かれている。
画面右側には要塞のような古城、左側には犬の散歩をする女性。
「左右で独立した絵としても成立しますが、一枚の絵に昔からある城と日常が調和しているのが魅力です。人物が画面に入ることで、時の経過もより感じられる」と鈴木威学芸員は話す。
若い頃は純粋な風景画が多かった杉本だが、1950年から吉川英治の連載小説「新・平家物語」の挿絵を手がけた際、吉川から「人間くさく」するため人物を描き込むよう助言されたという。
それもあってか、年を経るに従って画中に人物が増え、時には自分自身や愛犬までも描き込む「遊び心」が生まれた。