杉本健吉が生まれた家は祖父の代まで石工だった。祖父に連れられ、名古屋城の石垣をよく見に行ったという。そのためか、杉本が描く城は石垣や堀が主役の絵が多い。
90代半ばの頃、名古屋城の秋の風物詩を描いた本作もその一つ。学芸員の鈴木威さんは「丹念に描き込み、石垣への思い入れが伝わる」と話す。
画面の下半分からは、人々の楽しげな様子が伝わってくる。
カメラを構えたり子どもを肩車したり、ファッションも多彩。
鈴木さんは「どういう人たちだろうと想像する楽しさがあります」。
石垣の左端、居並ぶ武者装束の一団をとりまく人の中には、着物姿の自分も紛れ込ませた。
背景をよく見ると金箔を貼り合わせた跡のような格子状だが、これは描き込んだもの。上部や右下隅の金雲と合わせて屏風を思わせる。
移りゆく時代と人を、見守り続ける城の視点で描いた物語絵のようだ。