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「明ける」

田渕俊夫と日本画の世界 美をつなぐ(メナード美術館)

田渕俊夫 2020年 紙本墨画 116.5×90.7センチ
田渕俊夫 2020年 紙本墨画 116.5×90.7センチ

 雲の合間から太陽が顔をのぞかせ、光を反射した水面がきらめく。初公開となる田渕俊夫氏(79)の「明ける」は、コロナ禍に沈んだ私たちの心に希望の光を照らしてくれるような新作だ。

 構図の元は2017年に再建された奈良・薬師寺食堂(じきどう)内の壁画にある。田渕氏が仏教伝来の道のりを描いた14面の中の1面で、中国から日本に向かう遣唐使船からの視点で描かれている。夜が明けるにつれて、大海原の先に浮かび上がる日本の地。船上の人々は、万感の思いで見つめたのではないだろうか。

 壁画完成から3年、ほぼ同じ構図を水墨画で描き、象徴的なタイトルを付けた田渕氏。水墨画に取り組んだのは60代に入ってからだという。「見る人が自分なりの色に置き換えて、様々な見え方がするのでは」と主任学芸員の宮崎いず美さんは話す。

 現代日本画壇を代表する田渕氏が生み出す多彩な美の世界。今展では画業60年の初期から新作までを館蔵品で紹介する。(※6月21日まで臨時休館中)

(2021年6月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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