1970年に愛知県立芸術大学の助手となり、長久手市に転居した田渕俊夫氏は、周囲の草花をよく題材にした。
真夏の炎天下、仕事の合間をぬって学内に群生する常緑ササのメダケをスケッチした。ロール紙に原寸大で、汗だくになりながらも一本一本の線を細密に描くことに没頭。それをもとに再構成した本作は、芽吹いて繁茂し、枯れ落ちるまでが捉えられている。後の田渕氏のテーマとなる「いのちの循環」だ。
誰もが目にする身近な風景を題材にしながら、見えていないものに気付かせてくれる作品の数々。その原点には、必ず「感動」があるという。「最初のハッとする瞬間をスケッチの時点で大切に描くことで、気持ちを頭に焼き付けているんです」と主任学芸員の宮崎いず美さん。
よく見ると、色をのせずに線だけで表現している部分もある。描いては消すを繰り返し、極限まで向き合った線の持つ力を信じて、色を塗らずに表現しているという。
(※6月21日まで臨時休館中)