簡素なしつらえの能舞台に映える華やかな能装束。唐織、摺箔など約20種類があり、役の性別、年齢、身分、職業などを観客へ伝える重要な役割を果たしている。
唐織は女性役が身に着ける表着で、最も華やかな装束の一つ。和紙に柿渋、のり、漆をひき、金や銀の箔を貼りつけた平箔を地模様に織り、色とりどりの糸を浮かせて文様を織り上げた絹織物。刺繍のように見える立体感は、織物の技術によるものだ。
菊の花がモチーフの本作は、能装束で好まれる秋草の文様の典型。学芸員の社本沙也香さん(32)は「花が全面にあしらわれていますが、色の変化を上手に使っているため圧迫感がありません。華やかで美しく、同時に大変繊細な作品です」と話す。
能装束は上質な生糸生産と高度な染織技術を背景に、江戸時代に発展した。今展は、武家の美意識と教養が反映された当時の作品とともに、現代に復原された装束を紹介する。
岐阜市歴史博物館