すずりに水を差す「水滴」は、寺子屋の普及などで識字率が高まると需要が伸び、量産可能な規格化されたものが主流となった。
本作もそんな量産品の一つ。粘土を型に押し込む「型打ち」で梅やウグイスの柄を浮き出させ、連房式登窯で焼かれた。このころ美濃で登場した、ほんのり黄緑色で透明感がある「御深井釉」が施されている。
「筆やすずりなどと一緒に箱に収めて持ち運びやすいよう平たい形になったのでは」と主任学芸員の小川裕紀さんは話す。
明治期になるとさらに大量生産が求められ、マッチ箱大の陶磁器に転写紙を用いて画一的な絵柄を付けた製品が多くなる。作りとしては雑といえるが、縁起のよい鶴亀、子どもが好む桃太郎、世相を反映した風俗画などをあしらったデザインは「結構細かい仕事がされています」。