町をとりまく坂道から見える、白い壁に素焼きの赤い瓦屋根の家々。乾燥した空気や建物のざらりとした質感が表現されている。
1968年、63歳で再び渡欧した三岸節子の滞在は約20年に及んだ。その間に出会ったスペイン・アンダルシア地方の風景をよほど気に入ったのか、色や構図、表現を変えて何枚もこの町の油絵を描いている。
54年の最初の欧州滞在で、周遊中にどこかで目にした「白い家」が忘れられなかったという。伝統的な町並みを探してあちこちを旅し、やっと見つけた風景だった。
幼い頃から股関節脱臼症を患い足が悪かった節子。静物画を多く描きながらも、各地を旅して風景画を描くことへの憧れがあったのでは、と学芸員の大村菜生さんは話す。
湿度の高い日本よりも油彩に合うと、欧州の風景を求めた。「やっと思い通りの風景に出会えた」とつぶやいたのがこの景色だった。