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ゴアナとヤムイモと精霊

「精霊たちのいるところ アボリジニの美術」展(岐阜県美術館)

作者・制作年不詳 145.0×98.3センチ 天然顔料、樹皮
作者・制作年不詳 145.0×98.3センチ 天然顔料、樹皮

 オーストラリア先住民の美術(アボリジナルアート)を紹介する今展。ユーカリの樹皮に天然顔料で描かれた本作の題材は、彼ら特有の物語「ドリーミング」だ。

 ドリーミングとは、文字を持たない先住民が祖先から子孫へ伝える創世記であり、知恵や知識の体系でもある。人それぞれに異なり、他人のドリーミングを勝手に描くことは許されないという。

 本作のモチーフはユーカリの木、鳥、ゴアナ(オオトカゲ)、ヤムイモ、狩人の精霊。これほど多くのものが描かれた絵は珍しく、狩猟の物語とみられる。

 先住民のアーティストは、こうした作品を居住区に設けられた「アートセンター」で制作し、日用品購入に必要な金を受け取る。1990年代に作品収集のため現地を訪れた副館長の正村美里さんは、「彼らには裕福になるために描くという意識はなく、数も限られているため、その時に出会った作品が全てなのです」と話す。

(2021年10月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)