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丸太の棺

「精霊たちのいるところ アボリジニの美術」展 (岐阜県美術館)

作者・制作年不詳 直径14×高さ130センチ 天然顔料、木
作者・制作年不詳 直径14×高さ130センチ 天然顔料、木

 オーストラリア北部アーネムランドに住む先住民の棺は、天然顔料で美しく彩られた軟らかいユーカリの木でできている。

 現地では遺体を野に安置して自然にかえす鳥葬(風葬)の風習がある。数カ月~1年ののち、残った骨を中空の丸太の中に納め、地面に立てて葬送の儀式が行われる。儀式までは故人の霊が浮遊しているとも言われ、親族にとって注意をはらうべき神聖な時間となる。

 棺に描かれるのは、故人が受け継いできた「ドリーミング(創世記や狩猟採集の物語)」だが、居住地のアートセンターで入手できる棺に描かれているのは、公にしてよいものに限られる。正村美里副館長は「人手に渡ってよいものとして作られた作品で、彼らにとっての秘儀が出されることはありません」と話す。

 かつては外部からの侵入者によって不用意に持ち出されることもあったが、1967年に先住民が市民権を獲得して以降、彼らの伝統的生活は守られ、尊重されるようになっていった。

(2021年10月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)