オーストラリア北部アーネムランドに住む先住民の棺は、天然顔料で美しく彩られた軟らかいユーカリの木でできている。
現地では遺体を野に安置して自然にかえす鳥葬(風葬)の風習がある。数カ月~1年ののち、残った骨を中空の丸太の中に納め、地面に立てて葬送の儀式が行われる。儀式までは故人の霊が浮遊しているとも言われ、親族にとって注意をはらうべき神聖な時間となる。
棺に描かれるのは、故人が受け継いできた「ドリーミング(創世記や狩猟採集の物語)」だが、居住地のアートセンターで入手できる棺に描かれているのは、公にしてよいものに限られる。正村美里副館長は「人手に渡ってよいものとして作られた作品で、彼らにとっての秘儀が出されることはありません」と話す。
かつては外部からの侵入者によって不用意に持ち出されることもあったが、1967年に先住民が市民権を獲得して以降、彼らの伝統的生活は守られ、尊重されるようになっていった。