神社の絵馬といえば五角形などの板で、願い事を書いて奉納するのが一般的。だが奈良市の手向山八幡宮で授与される立絵馬は、名前の通り馬の形を模し、縁起物として持ち帰られる。
木の板の両面に胡粉を塗り、泥絵の具でたてがみや尾、飾り馬具などが描かれている。馬のモデルは祭神である応神天皇が愛したという「あつふさ」。馬具は八幡宮所蔵の国宝「唐鞍」からのデザインで、明治期から変わっていない。本作はコレクターが昭和期に収集した。
東大寺鎮護のため8世紀に創建された八幡宮には当初、晴天を祈るときは白い馬、雨乞いには黒い馬を奉納する習俗があった。鎌倉時代以降、板や紙に描いた馬が代用されるようになり、さらに変化して現在の形になったといわれる。
学芸員の岩間千秋さんは「素朴な馬の形に彩色の美しさ。現代でも新鮮なデザインです」と話す。