ナナカマドの実にうっすら積もる雪が冬将軍の到来を告げる。蒔絵の人間国宝・室瀬和美が青森を訪れた際目にした光景をモチーフにした作品だ。
赤い実は螺鈿、雪は砕いた卵殻。見る角度によって表情が変わる螺鈿や金粉、卵殻の白と磨き込まれた漆が一体となり「吸い込まれるような表情です」と学芸員の中村潔さんは話す。
葉の一枚一枚が浮かび上がるような立体的な表現は、室瀬が得意とする「研出蒔絵」による。漆で描いた文様が固まる前に金粉などをまく。乾燥後さらに漆を重ねて塗り、表面を研磨。この工程を繰り返すことで奥行きが生まれる。「気が遠くなるような多くの工程を想像しながら見ていただきたいです」
20年に1度行われる伊勢神宮の式年遷宮に際しては文化勲章受章者、文化功労者らから様々な美術・工芸作品が献納される。今展ではその中から2012年までに納められた35点を紹介する。