花咲く大樹のもと鳥が向き合う図柄の裂(きれ)は奈良・正倉院宝物の染織品だ。京都市の工房「染司(そめのつかさ)よしおか」5代目・吉岡幸雄(1946~2019)が、幻の技術と呼ばれる夾纈(きょうけち)技法で復元した。
同じ文様を彫った2枚の板の間に布を挟んで染める夾纈は、難しい技法のため平安時代以降途絶えていたが、父で4代目の常雄(1916~88)が複数の色を用いて再現に成功した。「先代の研究や技術が受け継がれて作品に結実した」と、岡崎市美術博物館学芸員の酒井明日香さんは話す。
板に片面1600個もの穴を開け、染料の茜(あかね)、蓼藍(たであい)、刈安に浸す際にそれぞれの穴をふさぐ栓を開閉させて染め分ける。彫刻に2カ月、染色に3週間を要したという。
正倉院や古い寺社に伝わる染織品について幸雄は著書にこう記す。「技術の水準が非常に高く、奥が深く、そして美しい」
※会期は11月5日まで。