墨による抽象表現を探求した美術家・篠田桃紅(1913~2021)。今展は桃紅の活動を長年見守った画廊ザ・トールマン コレクションの作品から、創作の軌跡をたどる。
本作は、画廊創業者トールマン夫妻の銀婚式を祝って制作された大型の肉筆作品。二つ並んだ縦長の画面はそれぞれ銀箔の上に墨を引いた黒い面と銀箔を貼った明るい面に分かれ、その間を「月」を表す細い線が行き交う。「明と暗、面と線といった対比が見られます。日本的な優美さ、叙情性も感じられます」と、古川美術館学芸員の小柳津綾子さんは話す。
幼いころ父に書の手ほどきを受けた桃紅は、既成の書の形ではない新たな表現を模索した。1956~58年、抽象表現主義が花開いたニューヨークに滞在し、帰国後に独自の表現を確立。文字の意味にとらわれない水墨抽象の世界を切り開いていった。