左右から伸びた太い線が、中央で交差する。その上を、朱と銀泥の細い線が勢いよく走る。横長の画面に、作家の筆の動きが立ち現れてくるようだ。
半世紀以上にわたり水墨抽象の可能性を追い求めた美術家・篠田桃紅、101歳の年の大型作品だ。2021年に107歳で亡くなった桃紅は最晩年まで制作に取り組み、個展を開催するなど精力的に活動した。
画面左から右に向かう線には、墨を幾重にも重ねた跡が見られる。桃紅は輪郭をとって面を塗るのではなく、線を重ねることで面を作ったという。「墨は一度引いたら消すことができない一回性のもの。線の重なりや和紙のにじみ、かすれといった偶発的な美も感じられる」と、古川美術館学芸員の小柳津綾子さんはみる。
今展では、朱と胡粉の線で構成した17年制作の作品、和歌を素材にした晩年の作品も展示している。