白塗りの顔、奇抜な衣装の軽業師たちがポーズを取る。しかし画面からは、サーカスのにぎやかさを感じられない。鏡張りの狭い空間に閉じ込められているようで、どこか不気味だ。
本作のモチーフは生身の人間でなく、機械仕掛けの人形と言われる。「人間か人形か、現実か虚構の世界なのかも判然としない。そのあいまいさが、見る人の認識を揺さぶるのだろう」と、三重県立美術館学芸員の坂本龍太さんは話す。作者のホセ・グティエレス・ソラーナ(1886~1945)はろう人形や仮面を好んで描き、独特の表現世界を生み出した。
ソラーナは都市部の貧困や過酷な労働なども絵画の主題とし、暗く重々しいスペイン像を描いた。長崎県美術館コレクションの核をなすスペイン美術作品を収集した外交官・須磨彌吉郎(1892~1970)は、ソラーナを「黒きスペイン」の描き手として敬愛したという。