スペインを代表する画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)。本作は4大版画集のうち、最後に着手された「妄」の1枚だ。
ゴヤは宮廷画家として画壇の頂点に上りつめたが、後半生には深い思索や批判精神に基づいた版画、素描にも取り組んだ。中でも、現在22枚1セットで知られる「妄」は最も謎めいた作品群。薄闇にうごめく動物や怪物、人間を描き、奇妙なイメージが色濃く表れる。
本作の主題はカトリックの伝統的な祭り、カーニバル。「画面からは陽気で楽しげな雰囲気は感じられない。仮装して騒ぎ立てる人間の非理性的な部分をとらえている」と、三重県立美術館学芸員の坂本龍太さん。
時代は、旧来の思想や権威を批判して「理性の光」をよりどころとする啓蒙思想の全盛期。「ゴヤも啓蒙思想に影響を受け、この時代の『闇』に目を向けたのだろう」と、坂本さんは説明する。