「いてて……」と叫ぶ声が聞こえてきそうだ。旅人の背後からつかみかかるのは、旅籠に呼び込もうとする留女。御油宿(現在の愛知県豊川市)は隣の赤坂宿との距離が1.7㌔と東海道中で最も短く、留女の客引きが盛んだったという。
歌川広重(1797~1858)が東海道シリーズのうち初めて手がけた保永堂版の一枚。街道を歩くような視点で描かれている。「夕闇の中、宿場が整然と並ぶ風景は幽玄な雰囲気。人々の騒がしさとの対比が効いている」と、中山道広重美術館学芸係長の常包美穂さん。
旅人と留女の攻防は、広重が何度も描いたモチーフ。強引な誘いを切り抜けようとする様子がコミカルだ。
同館は、広重の名所絵に描かれた人々に着目。親しみを込めて「おじさん」と呼び、展覧会やグッズを展開してきた。今展では広重作品を中心に、浮世絵に登場する個性豊かな「おじさん」を紹介する。