吉原宿(現在の静岡県富士市)の近く、松並木の街道を進む一行。そろいの着物姿をした女性2人と、馬を引く馬子(まご)、お供の男性が続く。表情はみな穏やかで、会話が弾んでいるようだ。
モチーフとなったのは、「左富士」と呼ばれる場所。東海道を江戸から京に向かうと富士山は右手に見えるが、吉原宿付近は道が大きく湾曲していたため左手に見えて珍しがられたという。
本作は、富士山の手前に松の木々を重ねて描いている。「風景を層状に表して遠近感をだしている」と、中山道広重美術館学芸係長の常包美穂さんは説明する。
名所絵の主題は風景。そこに登場する人々は、画面を引き締めたり、雄大な自然を演出したりする点景として描かれる場合もあるという。「画面全体から風景表現や構図などを味わい、さらに作品に近づいて画中の人々の表情やしぐさをじっくり楽しんでもらいたい」