ムンクの「叫び」に似た表情のサル。口を広げてニカッと笑っているようなこま犬。動物のコミカルな表情を表現した水滴は、昭和期の陶芸家・荒川豊蔵の収集品だ。
水滴は、すずりに水を差すための小さな容器。荒川は桃山時代の焼き物を研究するため各地の窯跡から膨大な陶片を集めたが、手のひらサイズの水滴はほぼ完全な形で残っているという。
本展では荒川のコレクションから56点を展示した。丸や四角などシンプルな形に絵付けや刻文を施した水滴のほか、丸くふくらんだ姿のふくら雀(すずめ)、魚やカニなどをモチーフにしたものも。「動物の表情やしぐさが愛らしく、陶工の遊び心が感じられる」と、統括学芸員の加藤桂子さん。桃山時代の美濃の焼き物にもみられる、豊かな感性が盛り込まれているという。
荒川は水滴のカニやサルとよく似た形の香合を制作した。いずれも会場に展示されている。