柔らかな白色の中に表れる緋色(ひいろ)。桃山時代の「志野」に魅せられた荒川豊蔵は、自ら発見した陶片を手がかりにして再現に挑んだ。本作は、その功績から人間国宝に認定された60代で手がけた茶碗(ちゃわん)だ。
志野は桃山時代に隆盛した焼き物。1930年に荒川が美濃地方の窯跡で陶片を見つけたことで、「志野の産地は瀬戸地方」という通説を覆した。会場では「豊蔵の世界」と題し、窯跡出土の陶片を研究しながら作った茶碗や香合などを紹介する。
特徴的な緋色は焼成時、素地に含まれる鉄分が反応したものとされる。荒川は「無意識にできたものが美しい」と魅力を感じていたという。荒川は桃山時代の材料や技法を追求したが、作品には独自性も見られる。「桃山時代の志野は腰が張った力強い造形が特徴。本作は柔らかな印象で、優しさがにじみ出ている」と、統括学芸員の加藤桂子さんは解説する。