本書の作者は、民藝(みんげい)運動の主導者で「仏教美学」を提唱した柳宗悦。装丁を担当したのは、唯一の内弟子として審美眼を磨いた鈴木繁男である。
鈴木は題字の下に蓮台(れんだい)を配し、「南无阿弥陀佛」の六字を仏像に見立てた。題字を囲む放射状の抽象文様は、光背をイメージさせる。この文様は、鈴木自作のハンコで表現したものだ。独特の質感は、和紙にコンニャクのりを塗りながら手もみでシワをつけた強制紙ならでは。強度を高めつつ、油を塗って光沢を出した。
柳はこの題字を気に入り、掛け軸も作らせた。下書きを見ると、へんとつくりの間をわずかに調整するなど、鈴木の微細なこだわりが分かる。「生家で学んだ漆芸だけでなく、今で言うデザインや、後に独学で始めた陶芸などにもマルチな才能を発揮した」と学芸員の北谷正雄さん。本展では、鈴木が手がけた装丁や陶、漆絵から収集品まで、「手と眼(め)」による約290点が並ぶ。