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「羊顔図202-03」

名古屋ひつじ物語(ヤマザキマザック美術館)

 


美博ノート
「羊顔図202-03」

 

 井上信太が展開する「羊飼いプロジェクト」は、ベニヤ板に、木炭やソフトパステル、チャコールペンシルを使って、羊の輪郭を描く。その後、特製の判子で模様を付け、指先や拳でぼかしながら、もこもことした毛並みの陰影を出す。

 この作品の額からはみ出た羊は、空間造形と平面アート、二つの世界を行き来する作者自身の姿だ。群れは個があるから力を発揮できると井上は考え、羊の群れを描くときと個を描くときで表現手法を変える。

 普段描く群れの羊には顔がない。だが数年に一度だけ、このように個の羊に目、口、鼻を描き、表情や感情を持たせる。美術家の声なき声を描写しているという。他の人とは違う視点で物事を観察し、苦悩しながらも、現実社会の中で作品を作り続けるとの思いだ。

(2014年12月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)