ひとりのコレクターである保木将夫さんが集めた巨匠から若手まで約40作家300点の写実絵画を、信頼のおける好きな建築家の山梨知彦さんに依頼し2010年11月に千葉市緑区の自宅近くに完成させたホキ美術館。「自分のために作った美術館」が、今では注目を浴び、多くの来館者を感動させるに至っています。
ホキ美術館が出来るまでは、自宅隣にもう一軒家を購入し、そこで作品を年に2回公開していたそうですが、話題が話題を呼び訪れる人の数も膨大な数になり、それならより多くの方に自分の愛する写実絵画の魅力を知ってもらうべく、一念発起し美術館建設に踏み切ったそうです。
一般的な美術館には展示作品、展覧会に応じフレキシブルな対応が求められ、結果として特徴のない四角四面のホワイトキューブとなりがちです。しかし、徹底した自分らしさを追求するホキ美術館にそうした制約は課せられません。その結果地上1階、地下2階の三層の計500メートルもある回廊式のギャラリーに常時約150点以上の写実絵画がずらりと並びます。
通常のピクチャーレール、ワイヤーを用いずに強力マグネットで作品を固定(作品だけを集中して観られる)したり、天井にはまるで天の川のように無数のLED電球が埋め込まれていたり(それぞれの作品に合った色温度に一枚一枚調整可能)と、写実作品と向かい合うために最良の空間が来館者を包み込み、これまで体感したとのない鑑賞体験を可能としています。
また通常の音声ガイドにも不満を持っていた保木さんは、イヤホンを使い回しせずにすむ音声ガイダンスシステムも導入しています。照明を落とした空間に作品が浮かび上がる幻想的な「ギャラリー8」に展示された100号以上の大作15点の前には直感的に操作可能な音声ガイドが設置され、鑑賞者は自由に解説を聞くことが出来ます。
自分自身が心底惚れ込んだ写実絵画を最良の空間で毎日のようにひたれる美術館。これほど「自分らしさ」を追い求めた個性の強い美術館でありながら万人に受け入れられる美術館も他にはありません。
ホキ美術館内レストラン「はなう」にも保木さんの「自分らしさ」が思う存分に現れています。初代館長として、当初フレンチ・レストランをここに作ろうとしていたそうです。しかしフレンチだとどうしても高くなってしまい、リーズナブルな価格で料理を楽しんでもらえなくなってしまいます。そこで、西麻布の人気イタリアン「リストランテ アルポルト」の片岡護シェフに協力を求め、「はなう」をオープンさせたそうです。毎月1回開催している「ワイン会」もワイン好きなオーナーならではのイベントです。 |
ホキ美術館
〒267-0067
千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
開館時間:午前10時~午後5時30分(入館は午後5時まで)
休館日:毎週火曜日
電話:043-205-1500
URL:http://www.hoki-museum.jp/
【筆者プロフィール】
中村剛士(なかむら・たけし)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆なども。
http://bluediary2.jugem.jp/