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創業原点の酢、よみがえらせる

ミツカン食酢エキスパート社員 赤野裕文さん

ザ・チャレンジャー
開発に携わった粕酢の「千夜」を手に思いを語る赤野さん
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 食酢の大手メーカー、ミツカン(本社・愛知県半田市)で、「酢の伝道師」と慕われる社員がいる。赤野裕文(あかのひろふみ)さん(60)。入社以来37年にわたって食酢づくりに携わり、会社の原点といえる粕酢(かすず)の普及や飲みやすい黒酢の開発を手がけてきた。定年後すぐに再雇用され、お酢の文化を広めるため「食酢エキスパート」の肩書で講演をしたり子ども向けの酢を使った実験教室を催したりしている。赤野さんのお酢への思いを聞いた。

(根津香菜子)

 

ミツカン

――粕酢の普及に携わられているそうですね。どんな酢ですか。

 粕酢は、ミツカンの創業の原点なんです。江戸時代、半田の造り酒屋だった初代中野又左衛門が、酒粕(さけかす)をリサイクルして造った食酢です。当時、江戸では握りずしの原型「早ずし」が流行していて、粕酢を江戸に出荷したところ「すし飯に合う」と評判になりました。粕酢で酢飯をつくると山吹色になることから商品名を「山吹」とし、中でも特に品質の良いものは「三ツ判山吹」と言います。今も同じ商品名の粕酢を販売しています。「山吹」があったから、すし文化が海外に知られるほど広がったと思います。新たな酢を開発するうえで原点を知ることはとても大切です。

千夜 箱入り

 ――2015年11月、食酢をテーマにした企業ミュージアム「ミツカンミュージアム」が半田市にオープンしました。会場で1千本限定で販売した粕酢「千夜(せんや)」の開発を手がけたそうですね。

 「千夜」は、「三ツ判山吹」を原酢としてさらに3年熟成させ、計6年醸造しています。パッケージの包装をデザインした佐藤卓さんが「3年寝かせるのは千の夜を超えるということ」と、ネーミングしました。「三ツ判山吹」がミツカンの創業の逸品であるなら、「千夜」は今の時代に求められる粕酢をめざした挑戦の逸品です。長期間の熟成で醸し出された熟成香によって、すしだけではなく、チョコレートなどのスイーツにもマッチする味わいに仕上げられました。

MIM入口

 ――どうしてミュージアム限定販売にしたのですか。

 ミツカンの酢造りの歴史やものづくりの姿勢、商品の背後にある物語を知ってもらいたかったからです。「千夜」は1本333ミリリットルで2920円。これはミツカンの食酢の中では非常に高価です。社内でも「そんなに高い酢が売れるわけがない」という意見がありましたが、16年3月25日の販売から約4カ月で完売しました。17年分は、春ごろからミュージアムで販売予定です。ぜひ手にとって、酢の歴史とおいしさを知っていただきたい。

MIM外観

 ――赤野さんは、03年の黒酢の開発で、07年に日本農芸化学会から同僚とともに農芸化学技術賞を受賞しています。

 アミノ酸を多く含む黒酢は健康にいい「飲む酢」として2000年ごろブームになりましたが、当時は黒酢について公的な規格がなく、ミツカンは黒酢を発売しませんでした。しかし、将来に備え、クセがなく、飲みやすい黒酢を目標に商品開発を進めていました。03年に日本農林規格(JAS)で黒酢の規格が固まり、ミツカンも「純玄米黒酢」という商品を出したのです。それまでに原料や使用する麹(こうじ)菌などの微生物、発酵、熟成条件などを徹底的に検討してきました。玄米をたくさん使って出た甘みと、特別な麹菌を入れてできたクエン酸の組み合わせが味のバランスを良くし、満足できる黒酢ができました。売り上げを順調に伸ばし、黒酢分野でトップシェアを獲得。黒酢の開発がきっかけになり、ミツカンの商品のラインアップが横に広がりました。黒酢ドリンクや、タレに黒酢を使った納豆などは「純玄米黒酢」があったからできたと思っています。また、おいしい黒酢の品質を科学的に解明したことで、農芸化学技術賞を受賞することもできたのです。

 ――赤野さんがお酢に興味を持ったきっかけを教えてください。

 私は微生物が作り出す発酵食品に興味があって、高専を卒業後、大学に編入し発酵工学を専攻しました。縁あって中埜(なかの)酢店(現ミツカンホールディングス)に入社しましたが、実は酢が苦手だったんです。でも、苦手だからこそおいしい酢づくりができたと思います。当時、日本の酢の規格が大きく変わる時期でした。先輩たちと、新規格での酢の製法を試行錯誤しながら商品化できたことが、私の財産です。

 ――赤野さんにとって酢の魅力とは何ですか。

 可能性の大きさです。味覚の基本となる五味の一つであるお酢の酸味は、甘味や辛味などと合わさり、無限の味わいをつくり出す名脇役だと思っています。他にもまな板などの台所用品や、食材の菌の繁殖を抑えるなど、活用法がたくさんあります。調味料の枠を超えて、もっと生活全般の中で何かできる気がします。
 世界には酒の種類と同じだけ酢があると思っているんです。第一線から離れたいま、もっと世界にも視野を広げて酢の可能性を研究してみたいです。

 

三ツ判山吹

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※応募には朝日マリオン・コムの会員登録が必要です。以下の応募ページから会員登録を行って、ご応募ください。

→終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。

 

ミツカンミュージアム

《ミツカンと酢の歴史》

 1804(文化元年)創業。1887(明治20)年、創業家の家紋の三の文字の下に○を付けた「三ツ環」マークを商標登録。現在は海外での食酢やパスタソース事業も積極的に展開し、ミツカングループの海外売上高比率は2015年に5割を超えた。

 「ミツカンミュージアム」は、半田市の本社に隣接する運河沿いに2015年11月にオープンした。かつての醸造蔵をイメージした黒塀が特徴。館内は五つのゾーンに分かれ、江戸時代の酢づくりや道具などを説明、展示するほか、江戸時代に酢を江戸まで運んだ全長約20メートルの大型木造船「弁才船(べざいせん)」を実物大で再現した。 「光の庭ゾーン」にある体験コーナーでは、板前の衣装を着て模造のすしを握ったり、館内で撮影した自分の写真をラベルにできたりする「マイ味ぽん」作り(有料)も。

ミツカンミュージアム

 ミュージアムの営業時間は午前9時半から午後5時で、1日13組限定の事前予約制。インターネットか電話で申し込み、見学は1組最大25人まで。入館料は大人300円、中高生200円、小学生100円。木曜日休み(お盆と年末年始も)。 TEL0569・24・5111
http://www.mizkan.co.jp/mim

 

会社データ

会社データ

 ◆ミツカングループ(本社・愛知県半田市)。8代目オーナーの中埜和英氏は、現在、ミツカングループ代表兼グループCEO、ミツカンホールディングス会長を務めている。社員数約3700人、売上高2486億円(2016年2月期)。半田市の本社、東京ヘッドオフィスのほか、国内に9支店、8営業所、8工場、海外に6拠点、19工場がある。

http://www.mizkan.co.jp/company

(2016年11月14日掲載。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は更新時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)