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初めて見たのは公開時で、勤めていた出版社を辞め、イラストレーターとして独立した頃です。とにかく大画面に最初から最後までアメ車の洪水。僕らのような戦後育ちって、みんなアメリカ文化に夢中になっていたからね。華やかで夢があって、少年時代に憧れた世界がこの作品にはいっぱい詰まっていました。
舞台は1962年、カリフォルニアの田舎町。主人公カートは高校を卒業し、遠くの大学への進学が決まっています。仲間と過ごす最後の夜。恋人とのけんかや校内ダンスパーティー、ドライブ中のナンパ、公道でのカーレース……、一晩で起こった出来事をタイトルの通り、「落書き」のようにつづっていきます。
映画冒頭のシーンで一気に引き込まれました。50年代のヒット曲「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が流れ、夕暮れのドライブインにデカくて派手なアメ車が続々と入ってくる。そこにローラースケートを履いたウェートレスがハンバーガーを運んでくるんだから。広島県呉市で校則の厳しい高校時代を送った僕には、想像も出来ない光景ですよ。
一方で好きな女の子の前で見えを張ったり、不良たちの誘いをなかなか断れなかったり。そんなところは自分の性格と重なりますね。見る度に多感な時期の感情や、独立したてで必死だった頃を思い出し、初心に帰るんです。人生の岐路に立ったタイミングでこの作品と出会えたことに、巡り合わせのようなものを感じています。
聞き手・永井美帆
監督=ジョージ・ルーカス
製作=米
出演=リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、ポール・ル・マットほか ほそかわ・たけし
1943年生まれ。著書に「クルマのメカ&仕組み図鑑」など。6月5~11日、紀伊国屋書店新宿本店4階で行われるJPAL展に出品。 |