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パキスタンの難民キャンプで育ったアフガニスタン人孤児が、ロンドンを目指す命がけの旅を描く作品です。
主人公を演じた15歳の少年ジャマールは実生活も難民。その目線で死と隣り合わせの6カ国越境が描かれる。検問、銃撃、怪しい仲介人。貨物コンテナで海を渡る途中、酸欠で大人は死んでしまう。
巧妙なセミドキュメンタリーなので、少年に感情移入します。イタリアの観光地の場面でハッとしました。少年がミサンガみたいなものを売りながら、観光客のバッグを置き引きする。スペインのマドリードで、夜中に10人ほどのグループに追いはぎに遭ったことを思い出しました。映画の主人公くらいの子もいたんです。海外旅行でずっと観光客だった自分の立場が相対化され、観光客を狙う側の事情を考えさせられました。難民問題を声高に主張しないけど、僕の不勉強な部分を疑似体験させてくれた。
エンドロールに一番感心しました。映画の舞台となった中東各地の民家の土壁が画面に次々と現れ、欧州を含め国や地域ごとのキャストの名前が紹介される。異なる文化を認めようという多文化主義を感じる。現代美術の流れでもある。
日本は中東、難民の世界から遠く、関心は内向き。外国人が普通に働いているのに、彼ら同士のラブストーリーを描く映画なんて聞いたことない。もし、日本が舞台の映画ができたら、エンドロールに出てきそうな壁を描いてみました。
聞き手・由衛辰寿
監督=マイケル・ウィンターボトム
製作=英
出演=ジャマール・ウディン・トラビ、エナヤトゥーラほか あいだ・まこと
絵画、映像、フィギュアなど表現方法は多彩。「戦争画とニッポン」(共著)が6月発売予定。9月から新潟県立近代美術館で個展。 |