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和田淳さん(アニメーション作家)
「お早よう」(1959年)

念願のテレビ 弟の意外な行動

 和田淳さん(アニメーション作家)「お早よう」(1959年)

 

 庶民の暮らす平屋が集まった、昭和の住宅地。数組の個性的な家族が登場する中、物語の中心となるのが、中学生と小学生の兄弟がいる林家です。

 テレビの購入をねだる兄弟を「うるさい」「おしゃべりだ」と叱る両親。だけど、兄弟からすれば大人たちが交わす「おはよう」「いいお天気ですね」という会話が無駄に思える。大人と子どもの感覚の違いを双方の視点からバランスよくとらえながら、物語は進行します。

 林家の次男・勇(いさむ)ちゃんがすごくかわいく描かれているんです。お兄ちゃんについて回り、ひたすら言動をまねします。でも、兄弟で家出するあたりから変化が。河原で一人、立ち小便をしたり、手にお茶を受けて飲んだり。そうした勇ちゃんの姿を追うだけでも、鑑賞の度に発見があります。

 注目は、念願のテレビを買ってもらった場面。はしゃぎすぎてお父さんに怒られ、お兄ちゃんは黙り込みます。一方、勇ちゃんは「バンバンバン」と銃を撃つまねをした後、フラフープをそれはもう一心不乱に回しだすんです。抑えきれない喜びの表れでしょうが、その突拍子もない行動に、空恐ろしさを感じてしまいました。でも、そんな意外な一面も含めて、やっぱりかわいいんです。

 僕もよく弟を連れ回した記憶があります。従順だった弟に独立心なんてないと思っていたけど、実は彼なりに色々と考えていたのかも。勇ちゃんを見て、ふと思いました。

聞き手・中村和歌菜

 

  監督・共同脚本=小津安二郎
   出演=笠智衆、三宅邦子、設楽幸嗣、島津雅彦、久我美子、三好栄子、田中春男ほか
わだ・あつし
 1980年生まれ。独学でアニメーション製作を始める。2012年、「グレートラビット」がベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞を受賞。
(2015年5月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)