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舞台は第2次大戦後、米英仏ソ占領下のウィーン。友人ハリーに招かれてこの街に来たホリーは、ハリーが不可解な死を遂げたことを知ります。調べていくと、死んだはずのハリーが実は生きている。推理映画のように見えて、戦争を皮肉っている場面がたくさん出てきます。
ハリーが薄めて売ったペニシリンのせいで、多くの病人が犠牲になりました。小児病院のシーンでは、子どもの死を、子どもの姿を一切映さず、クマのぬいぐるみをベッドから取り除くことであらわしました。どのシーンも映画として隙がないですね。ハリー役のオーソン・ウェルズの出番が多くないのに存在感があるのもこの映画の魅力。彼が出ていなかったら、これほどの名作になったかしら。
ハリーは、犯罪者として各国の兵隊に追いつめられていきます。彼が逃げこんだ地下の下水路で、数カ国語が飛び交っているのも戦後の分断されたウィーンならでは。最初は罪の意識もなく余裕だった彼が、とうとう逃げ場をなくして、マンホールから指だけを見せていたのが、断末魔の叫びのようで悲惨で残酷。戦争を象徴している場面ですね。
戦争で一番の犠牲者は子どもなのよね。私は終戦後、6歳の時に肋膜炎(ろくまくえん)にかかりました。当時は薬がなくて、安静にしているしかなかった。だから、不正な薬を売ったハリーの罪がよく分かります。戦後70年の節目の今年、子どもたちに戦争についての本を読んでもらいたいですね。
聞き手・佐藤直子
監督=キャロル・リード
製作=英
出演=ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズほか わかやま・しずこ
1940年生まれ。代表作に「王さま」シリーズ。ほかに「てんてんてん」「ひまわり」「はしるの だいすき」など。 |